幻のアウトロー伝説📖読み物
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幻のアウトロー伝説📖読み物
あの日、死神アウトローは静かにバットを手に取った。 幻のアウトロー伝説 高校球児の夢が潰えたあの日から数年。
再会は、血と絶望の味がした――。
第1編
アウトロー・ライジング
第2編
死神の殺人予告
第3編
忘れえぬ記憶
アウトロー・ライジング あの日は雨だった――。 高校時代の野球部の後輩だった健太からの短い電話で、跋人は新宿の裏通りにある雑居ビルへと急いだ。 「先輩、助けてください、カツラダさんがっ……!」 近く開催予定の個展を飾る写真のロケハンに出ていた跋人であったが、後輩の震える声を聞いて、放っておけるはずがない。今はカメラを相棒に各地を放浪していた跋人だが、その根底にあるのは全寮制の男子校で培われた、愚直なまでの「漢気」だった。 その現場に着くと、案の定、桂田が当時からのガラの悪い仲間たちを連れて健太を囲んでいた。
桂田将司(かつらだ まさし)――かつて自分の、そしてチーム全員の甲子園という夢を粉砕した男の顔はまだかろうじて覚えていたものの、跋人は桂田への恨みなど、とうの昔に忘れていた。
ただ、泣きそうな顔をしている後輩が目に入った瞬間、腹の底から声が出た。 「おいおい――大の大人が寄ってたかって…みっともねえ真似すんなよ」 すっきり通った声に、桂田が顔を真っ赤にして叫ぶ。 「ほ、本郷ぉ! てめえ、ついにその面ぁ、出しやがったな!」 桂田が突然狂ったように拳を振り上げ、取り巻きたちとともに一斉に襲いかかってくる。 跋人は冷静だった。
エースとしてマウンドに立ち、全神経を指先に集中させていた頃に比べれば、彼らの動きは止まって見えるほど鈍い。
(……相変わらず動きがニブいヤツらだな) 跋人はポケットに手を突っ込んだまま、一歩、横にステップを踏んだ。
突っ込んできた男が、空振りの勢いそのままに仲間に激突する。別の男が蹴りを見舞ってきたが、軽く身を翻すと、そいつは自分のバランスを崩してゴミ箱に突っ込んだ。
跋人はただ、健太のもとへ歩を進めていただけだ。邪魔な障害物をひらりと避ける、散歩のような足取りで。 ふと、足元に一本の金属バットが転がっているのが見えた。
鈍い光を放つその質感に、跋人の指が勝手に動いた。吸い付くようにグリップを握る。
(……ああ、この感触) 甲子園出場最終予選の前日、これが最後の試合になるかもしれないと覚悟した、あの打席――。
跋人は無意識に、打席でのルーティンをなぞっていた。バットを高く掲げ、その切っ先を遠く夜の帳(とばり)へと、いや、記憶の中のバックスクリーンへと向けた。心の中で、かつての自分と対話する。
(かっ飛ばしてやるぜ……) カキーン! 迷いなく真っすぐに飛んでいくボール。ひとつの夢が夕焼け空に潔く、そして儚く散っていった……。
しばしの沈黙――眼の奥にアツイものがこみ上げるのを、跋人はやっとの思いで堪えた。
カラン……。 跋人は満足して静かにバットを置くと、腰を抜かしている健太の肩を叩いた。 「立てるか? 帰るぞ」
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第2編:死神の殺人予告
死神の殺人予告 一方、そのときの桂田の視点――それは、地獄から舞い戻った死神とその洗礼であった。 桂田は震えが止まらなかった。
数年ぶりに現れた本郷跋人は、もはや人間ではなかった。
かつて同じ野球部の後輩――「化け物」と呼ばれていたその才能の片鱗は知っていたが、これほどまでとは……。甲子園出場最終予選の前夜、オレたちが起こした恐喝事件のせいで野球部は廃部――ヤツは大きな夢を打ち砕かれた。 ヤツは、オレのことを相当恨んでいるに違いねぇ……いや、この日を指折り数えて、その恨みを晴らすことだけを考え備えてきたに違いない、あの目は本気だっ! 「おいおい――」 その咆哮だけで、空気が震えた。 (ヤバい――ヤラねば、ヤラれる…) 逆上した仲間たちも恐れに駆られて飛びかかるが、次の瞬間、何が起きたのか理解できなかった。 跋人は一瞬の残像を残して消えたかと思うと、仲間の一人を別の仲間に叩きつける(ように見えた)
流れるような円の動きで回し蹴りを放った(ように見えた)
一切の無駄がない、軍隊格闘術のような鮮やかさで、俺の自慢の兵隊たちが次々と地面に沈んでいく。 「ひっ……!」
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第3編:忘れえぬ記憶
⚠️ DANGER! 桂田の妄想が加速しています。 ⚠️
忘れえぬ記憶 ――仲間の一人が突っ込んだ瞬間、跋人がわずかに肩を引いた。 (な、なんだと……!?) 桂田の脳内辞書が高速でページをめくる。 「あれは……ボクシングスタイルから派生した超高等技術『ショルダーロール』か!?」 パンチを受け流された仲間が、勝手にバランスを崩して壁に激突する。
桂田は、格闘技雑誌と動画サイトで得た知識だけは一丁前だった。それゆえに、目の前で繰り広げられる「絶望」を詳細に解説できてしまったのが、彼にとって最大の不幸だった。
次に別の男が蹴りかかった。
跋人はただ、邪魔な石ころを避けるように半歩横にズレただけだったが、桂田の目には違った。
「合気道の『入り身』だと!? 力のベクトルを完全に無効化しやがった……!」 翻弄された男たちが互いに正面衝突し、鼻血を吹いて倒れる。跋人の無駄のない動きは、あらゆる武術を極めた達人の振る舞いに見えていた。 「ま、待て、本郷……!」 桂田が震える手でナイフを構えようとした瞬間、跋人がスッと懐に入ってきた。 実際には、跋人がただ「おい、やめろ」と言おうと近づいただけだが、桂田にはそれがムエタイの『カウ・プロン』の予備動作に見え、恐怖で思わずナイフを放り出した。 桂田は冷や汗でシャツをぐっしょりと濡らした。
噂では、本郷は大学卒業後に世界中を放浪しているという。
(……そうか、わかったぞ。あいつは俺を、俺たちを確実に潰そうと企んでいたんだ! 甲子園をぶち壊した俺たちへの復讐のために、世界中の戦場を渡り歩き、ありとあらゆる「殺しの技術」を体に刻み込んできたんだ!) 跋人がポケットに手を入れ、無造作に歩み寄ってくる。
その足音は一定のリズムを刻んでいるが、桂田の耳にはそれが「死のカウントダウン」に聞こえた。
(あの歩法……!! 間違いない、あれは『北斗』の秘歩だ!
足音を消すどころか、相手の心拍数に合わせて存在感を消去しやがった。あいつ、ついに伝承者になりやがった!?)
桂田は恐怖のあまり、勝手に作り上げた「復讐者・本郷」の幻影におびえ体が硬直しながらも、それを最大限にまで誇張妄想した。 (そうか……。あいつは旅の途中――世界中のあらゆる「最強」を会得してきやがったんだ。すべてはあの夏、俺たちが甲子園をぶち壊したことへの報復……。俺を確実に、この世で最も残酷な方法で葬るために……!!) そして、極めつけは例のバットだ。
跋人が金属バットを拾い上げ、ゆったりと構える。
(こ、これは……剣術の『八相の構え』!) 跋人がバットの先を自分に向けて固定した瞬間、桂田の知識が最悪の結論を導き出した。 (いや間違いない、あれはフィリピン武術『エスクリマ』の殺しの構えだ。
あの角度は、一撃で俺の頸動脈を断ち切るつもりだ。
しかもあの目……「今度会ったらコロす」と網膜に彫り込むような殺気が……!)
桂田は股の間が熱くなるのを感じながら膝をついた。
跋人が去っていく背中を見送る間、呼吸の仕方を忘れるほど、その「死神」のイメージが脳裏に焼き付いて離れなかった。
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