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あらすじ
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⼤きなプロジェクトを任されたアナタが仕事運にご利益のある神社へ参拝に向かったところ、なぜか平安時代にタイムスリップ︕︖
しかも、その時代には『妖し』が存在しており、危うく襲われそうになったところを助けてくれたのは、呪術陰陽師のカイト。
千年以上未来からやってきたというアナタの話を素直に信じてくれたカレと共に、アナタは元の世界に戻るための⼿⽴てを探し始めます。
しかし、⼀緒にいる時間が増えるにつれ、カイトに惹かれていくアナタ――元の世界に戻りたいけれど、徐々にカイトとも離れがたくなってしまいます。
そんな葛藤の最中、元の時代に戻る⼿⽴てが⾒つかります。
しかし、それはカイトに危険が及んでしまうもので――
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🌙 タイムスリップ
始まりは、この神社からだった。
ある日の休日。
大きなプロジェクトのリーダーに抜擢されたことがきっかけで、仕事運にご利益のある神社にやってきた。
初めての場所だから少し緊張するなぁ……と思いつつ、大きな鳥居をくぐる。
鳥居をくぐると澄んでいる空気がひんやりとしているように感じて、自然と背筋が伸びた。
昼下がりの木漏れ日が降り注ぐ境内を抜けて、拝殿へと向かう。
お賽銭を入れ、手を合わせてゆっくりと目を閉じた。
(精一杯頑張ります。どうか、プロジェクトが無事に成功するよう見守っていてください……!)
心の中でそう思っている途中……一瞬、強い風が吹いた。
風に乗ってうっすらと呪文のような言葉が聞こえてきて、そして消える。
お祈りを終えて目を開けようとすると、全身の力がふっと抜けて、ぐらりとするような感覚に陥った。
(あ、れ……?)
そのまま視界がゆらゆらと揺れて見えた。
自分の身体がそのあとどうなったのかも分からないまま、意識が遠のいていった――。
***
「――じょ、――そわか……」
誰かの声が聞こえる。
ぼんやりとした思考のままゆっくりと目を開けると、まるで神主さんのような服装をした男性に顔をのぞき込まれていた。
「大丈夫か?」
男性の向こうに大きな月が浮かんでいるのが見えて、もう夜になっていることが分かった。
(そうだ……私、お参りしてたら、急に意識を失って――それで、どうなったんだっけ……?)
もしかして、あのままずっと日が暮れるまで意識を失っていて、やっと今、神主さんに見つけてもらったところなのかもしれない。
ゆっくりと身体を起こすため地面に手をつくと、大きな砂利のようなものが手についてしまい、起き上がりながらそれを払う。
(――あれ? 神社の境内ってコンクリートだったように気がするけど……気のせいかな)
「あの、起こしてくださってありがとうございます。すみません、私、急に意識を失ってしまってみたいで……」
お礼を言って立ち上がると、神主さんらしき男性が「言葉が通じるのか……!」と心底驚いたような声を上げた。
「ど、どういう意味ですか?」
改めて神主さんらしき男性の方を向くと、急にガシッと肩を掴まれる。
「落ち着いてよく聞かれよ」
「は、はい……」
「ソナタは、余(われ)が新しい呪術の訓練をしている時に、突然召喚されたのだ」
「はい!?」
ジュジュツ? ショウカン?
「あの、神主さん。おっしゃっている意味がよく……?」
「余(われ)は神主さんではなく、陰陽師を生業にしている『カイト』と言う者だ」
「ええっと……陰陽師と言うのは、映画とかマンガで題材にされているような、あの陰陽師ですか? 安倍晴明とかなんとかの……?」
「あいにくエイガやマンガとやらはよく分からぬが――安倍氏は先日、長いこと藤原様を苦しめていた呪詛を祓って褒美を賜ったと聞いたな。おそらくソナタの認識で合っているだろう」
ここまでのカレとの会話で一つの仮説に辿り着く。
信じられないけれど、そうとしか思えない。
(まさか私、今……平安時代にいるってこと……?)
そう思いたってあたりを見渡すと、この神社の本殿も、姿はそのままなのにまるで新築かのように随分綺麗になっているような気がする。
「ここって、私が元居た場所のまま?」
「……なるほど、ソナタが元居た場所にもこの本殿があるのだな、それは感慨深い――しかしソナタはここへ何しに来たのだ?」
「あ、私は大事なプロジェクトが心配で――」
「風呂を急く人? ――あぁ、大切なもの(者)の字(あざな)のことだな」
「あ、はい、大切なもの(物)です」
「そうか……それはなんとかせねばな…」
そんなやり取りをしているうちに、さらに信じられないことが起こる。
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🌙 ヒトならざるモノ
夜の闇を切り裂くようにして――『ソレ』は現れた。
ソレは、神社の本殿の上に突如として現れた、大きくて赤い提灯のようなモノ。
提灯の上下が割れ、その部分がまるで口かのように、中から長い舌がべろりと飛び出ている。
提灯の上部分には、ぎょろりとした大きな目が一つ。
(なに、これ……)
人間は驚きすぎると声も出ないらしい。
カレは「ちっ……さっそく現れたか」と当然のようにソレの存在を受け入れていて、やはり私が知っている時代ではないことを自覚させられる。
「ソナタ、妖しの類を見るのは初めてか?」
カレに問いかけられて頷くと、「この京の都には、ヒトならざるモノがうじゃうじゃいるから気を付けたもれ」と当然のように言われる。
その直後――ぎょろりとした目がこちらを見た。
次の瞬間、大きな口が開いて真っ赤な火が噴出された。
「えっ……」
突然のことに身体が動かせずにいると、カレが盾になるように立ちふさがってくれた。
謎の呪文のようなものを呟きながら、両手で素早く手印を結んでいる。すると、あっという間に火が消えてなくなった。
そして、素早い動作で、カレは提灯本体に向けてお札のようなものを飛ばす。ぺたりと張り付いた瞬間、ソレはしゅわっと霞のように消えてしまった。
急に気が抜けて、その場にへたり込んでしまう。
「ソナタ、大事ないか?」
「は、はい……ありがとうございます」
「これ以上ここにいるのは危ないかしれぬな…… 。一度妖しが出現した場所には妖しが湧きやすくなる。夜は妖しの影響力が強いからな」
「えっ……」
(さっきの提灯のオバケみたいな奴が、まだうじゃうじゃいるってこと……!? この時代、怖すぎる!)
何が起こったのか、まだ完全には理解できていないままだけれど――ここが現代ではないこと、妖しも呪術も存在する世界だと言うことはハッキリした。
「立ち話もなんだし、場所を変えて改めて話そう」
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🌙 陰陽師
そう言われて連れられたのは、カレが住んでいるというお屋敷だった。
カレが言うには……謎の大蜘蛛を退治していた際、急にその妖しが消えたのと同時に、なぜか人である私が召喚されてきたと言う。
「改めて、ソナタは何者なのだ? とても破廉恥――いや、そのなんというか…珍妙な格好をしているので新手の妖しかとも思ったのだが……」
カレが私の服装を横目で眺めながら羽織を肩にそっと掛けてくれた。
「え? はれんち――」
思えばこの時代、膝下とはいえタイトスカートにノースリーブは少し刺激的であったかもしれない。気を取り直し、私は自分の素性を伝えると共に、(今が平安時代だとすると)この時代の千年も先の未来に生きていたことを伝えた。
「――なるほど」
私の話を聞き終えたカレは、神妙な表情で呟いた。
「話をまとめると、ソナタは三十三世代以上未来に生きる人間で――余の呪術がきっかけになってしまったのかは定かではないが、この時代に時間遡行してしまった――と。そして、元の時代に戻る手立てが知りたい、と」
「そうです!」
「驚いた……本当にそんなことがあり得るのか? いや、だとしたらその服装にも納得がいくか……」
この状況を信じられないのはお互いさまらしい。
しかし、何者か分からない私を妖しから助け、しかも真摯に話を聞いてくれたカレは信用できる人に違いない。おまけに驚くほど察しがいい。
「この時代に呼び寄せたのがあなたなら、元に戻る方法に見当はつきませんか?」
「そう言われても……元々未来の民を召喚するような術ではなかったし、現時点では分からぬとしか言いようがないな」
「そうなんですね……」
「――とはいえ、ソナタがこうなってしまったのも余が一因ではあるし、余がソナタの助けになろう」
「! 本当ですか!?」
「ああ、幸いにもこの家には空き部屋もあるし,ここで過ごすと良い。なんのお構いもできないがな」
「いえ、とてもありがたいです! お言葉に甘えてこちらでお世話になります」
自分の現状を理解できただけで、とりあえず一歩前進。
とんでもないことになってしまったけれど、とりあえず今はできることをやるしかないのだと、覚悟を決めた。
***
カレは陰陽師の仕事の合間を縫って、さまざまな文献を読み漁り、召喚術や過去の事例を見て、私が元に戻る方法を調べてくれた。
その間に、私は料理を作ったり屋敷の掃除をしたり……
お世話になっているカレに対して、私なりにできることを続けていた。
カレの暮らしぶりはというと――その身分のためか、白米を主食としており、近隣の山でとれたイノシシや山鳥の肉のほか、税や貢物として各地から集まる産物の貯えがあった。
また魚類、貝、海藻は保存技術がないため、塩漬けや干物にしたもののほか、デザートには粉熟(ふずく)と呼ばれる米団子のほか、かき氷やおはぎの原型でもある椿餅などがお膳に上った。
「今日は野菜の肉包みを作ってみました。私の時代の料理なので、お口に合うかどうか分からないんですけど……」
そう言ってロールキャベツを夕食に並べると、カレは「こんなに美味しいものは初めて食べた……!」と目を輝かせてパクパクと食べてくれた。
「本当は、あまり未来のことを知らない方が良いのだとは思うが……こうも魅力的な物が多いと、もっと知りたくなってしまうな」
未来の出来事や技術を知る者が過去に存在することで、少なからずその後の未来に影響を与えてしまうだろうということは、カレも私も感じていた。
きっと、その期間が長ければ長いほど、未来に与える影響も大きくなり未来が大きく変わってしまうであろうことも――
「とはいえ、余が旨いと思うだけであるならば、大した災いには及ぶまい…ふふ」
そう言いながらも、カレは西洋料理も面白がって食べてくれ、私の時代の話をたくさん聞いてくれる。
カレがいたから、慣れないことだらけのこの時代の生活もなんとかやっていくことができた。話しながら一緒に酌み交わした紅酒(あかき)は、ほんのり杏子の香りがした。
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🌙 朧月夜
ーーその中で唯一慣れないこと。
それは……毎日のように妖しに狙われていること。
――ドオォ……ン!!
「今晩もか……」
夕食を食べていたカレがしぶしぶといった様子で箸を置いて障子を開けると、土煙の向こうに巨大な蜘蛛のような妖しが見えた。
「ひっ……!?」
「まったく、いくら好物とはいえ毎晩毎晩代わるがわるうちに来るのはやめてほしいものだな……」
「こうぶつ?」
「呪力はどんな人間にも備わっているものだが、とりわけソナタは人よりも呪力量が多いように見受けられる。呪力量の多い人間は、妖しにとっては格好の餌食だ。多ければ多いほど強力になれるのだからな」
「な、なるほど……そういうことですか」
「楽しい夕餉の時を邪魔するものは、即刻退治してくれる」
「私のせいでいつも本当にすみません……気を付けてくださいね」
「ああ、ソナタはこの屋敷から出ぬように」
カレはそう言うと、妖し退治のために屋敷の外へ向かう。この屋敷の中は、カレが結界を張ってくれているおかげで守られている。
(お世話になっているうえに、毎晩のように妖し退治をさせることになるなんて申し訳ない……)
最初はそう思い、恐縮するばかりだったけれど――最近の私は、また一つ自分が役立てることを発見した。
「騒がせたな。すまないが、いつもの――たしか「ジュウデン」と言ったか……例のヤツをお願いできるだろうか」
「はい、もちろんです///」
妖し退治から戻って来たカレが、こちらに手を差し出してくる。
私はカレの手を両手で包みこむように握った。
呪力は呪力でしか賄えないエネルギーの一種で、急激になくなった呪力は呪力でしか賄えないが、呪力を持っている人と触れ合うことでそれを分け与えたりすることが可能だと言う。それをまるでスマホのようだと感じた私は、呪力を放失してしまったカレを戦いのたびに握手で「充電」することにしたのだった。
(これで呪力が補給できているのかも分からないし、私にはこんなことしかできないけど……少しでも、カレの力になれていたら嬉しいな)
想いを込めて、さらにぎゅっとカレの手を握りしめる。
「ふふ……ソナタは、ずいぶん暖かいな」
「え?」
「いや、体温のことではないぞ。ソナタの中にある呪力のことだ。手のひらを伝って余に流れ込んでくるソナタの呪力は、ひだまりに触れているように暖かくてひどく優しい――」
カレは甘やかな声でそう言うと、私の手を握り返し,その手をカレの額につけた。
「呪力なんて回復関係なく、こうしてずっとソナタに触れていとうなる……」
「えっ……///」
ドキドキと胸が高鳴る。
(私も、カレとなら――)
なんの躊躇いもなくそう思ってしまったことで、カレへの気持ちを自覚する。
ふとカレを見上げて、視線が交わった瞬間……握られていた手がパッと離された。
「すまない、ソナタを困らせてしまったな」
「えっ、いえ、そんな……!」
「……元いた時代には、ソナタを待っている大切な者があったな。ソナタを縛り付けるようなことはいたすまい」
「……」
カレはかすかに笑ってそう言うと、先ほどの言葉をなかったことにするかのように、お膳に向きなおった。
急に離されてしまった手は、ひんやりと温もりを失ってしまったように感じて、胸が切なく締め付けられた。
「――思えばさぞかし、ソナタを案じているものよのぉ…」
「……?」
「あぁ、ほれ、向こうでソナタを待つ者――なんと申したか――たしか『風呂急く人』と申したか」
(案ずる? 風呂急く……?)
ようやくカレが、大きな思い違いをしていることに気が付いた。
「あ、いえ、プロジェクトというのは……あの、人の名ではなくて――私が任されたお仕事のことです!」
「!?」
少し驚いたカレの顔が徐々にほころび、なんと、なんとと頷きながら、手元の箸をゆっくりと膳に戻した。
「今宵は月夜だ――少し、夜風にあたろうか」
「え、でもこのお屋敷を出ては――」
「いつも屋敷の中にいたのでは気も滅入ることだろう、月夜は結界の力を増幅する.万が一のときにはすぐに戻ればよい」
結構、適当なんだなと思ったら、ふと笑いがこみ上げてきた。
月をこそ 眺め慣れしか 寄り添うきみの 深きあはれを 今宵眺むる――
(これまで月ばかりを愛でていたが、今夜の貴方はなんと美しいことか――)
「え?」
「あ、いや、ほら、月が…まこと綺麗であるものよ」
そういって私の顎に手をかけ、私の瞳をのぞき込むカレの仕草に、思わず見とれてしまった。
涼やかな風がふたりを優しく包み込み、朧月夜はしっぽりと更けていった。
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🌙 トキノワタリグモ
それから数日後――
この日、屋敷の外に出現した妖しはカレの力をもってしても倒すことができなかった。
なぜかと言うと、妖しが空間に切り目を入れるようにして逃げてしまったと言う。
何度、その呪力を削ってもまるで時を巻き戻したかのような元の状態に戻ってしまい、かなり手ごわい相手だった。
「あんな芸当ができる妖しを見たことがない……」
カレは珍しくかなり疲弊して戻って来て、しばらくじっと考え続けていた。
「少し調べてみよう……もしかすると、ソナタがこの時代に時間遡行できたことと関係あるかもしれぬ」
「えっ……」
「なんせ、今夜現れたヤツは――大きな蜘蛛の妖しだったからだ。ソナタがこちらの時代に現れる直前、余が戦っていたヤツと同じに違いない」
調べた結果、カレの推測が当たっていることが分かった。
例の妖しの名は『時渡蜘蛛(トキノワタリグモ)』
過去と未来を行き来することで呪力を蓄えたり、回復させる能力を持っているらしい。
おそらくカレに退治されそうになったワタリグモは、一度私がいる時代へ退避し,呪力を回復して元のこの時代へ戻ってきたが――その際、傍にいた私を一緒に連れて来てしまったのだろう、というのがカレの見立てだった。
カレが発見した過去の文献『妖魍魎跋扈譚』によると、「その具体的な倒し方」と「ワタリグモが成敗されると、その身体は火の粉のように舞って消失し、同時にそれが連れてきたものも煙のように消失する」という記述とともに――
「大蜘蛛に異世界へ連れ去られたかと思えば、その先でソレが成敗されるとその夜明けとともに元いた世界に戻ってきた者がいる」という記述も併せて発見したことから「ヤツを倒せば、おそらく陽の力によって妖呪も失せて元いた場所に戻れるのであろう――」という仮説を立てる。
「よかったな。ようやくソナタが元の時代に戻る手がかりを見つけたぞ」
そう言われた時、ありがたいはずなのになぜか心の底から嬉しいと思えない自分がいた。
「ただ……余の呪力は持たぬかもしれぬ」
「えっ……」
「厄介な相手だ。ヤツを退治する前に余の呪力が枯渇する可能性がある。過去にヤツを倒した例がいくつかあるが、どれも呪術師はその戦いで呪力を使い果たしてしまうものばかりだ」
「呪力を使い果たすと、その呪術師はどうなるの? まさか――」
「あぁ、事例では、どれも成敗の後、手厚く弔われておる……」
「そんな……」
戦えば、カレもそうなってしまうかもしれない……。
そう考えただけで、心臓がヒヤリとした。
「っじゃあ、せめて戦う時はあなたの傍にいさせてください! そうしたら、いつでも呪力を補給できるし……」
「いかん。そんなことをしたら、ソナタが真っ先に狙われてしまう」
「でも……! これ以上、あなたを危険な目に合わせたくありません」
「無茶はせぬ。約束ぞ」
ウソだと思った。
しかし、そう言われてしまった以上、口にできる言葉はなかった。
加えて、ワタリグモを倒すことができたとしても、カレとはもう二度と逢えなくなってしまう――
カレをワタリグモと戦わせたくない。
たとえそれで、二度と元いた現代に戻れなくなったとしても……。
「……大丈夫。必ず余が元の時代に戻してしんぜよう」
私がこれ以上この時代にいたら、未来が改変されてしまうかもしれない――
それは私もカレも望んではいないし、カレが少なからず私のためを想ってそう言ってくれているのが分かるから……『二度と元の世界に戻れなくいい』なんて、そんなこと言えるわけがなかった。
「さて――それではさっそく、ヤツを倒すための呪符を作成するとしよう。ソナタも手伝ってくれぬか?」
「あ、はい…」
――こうして本当の気持ちを伝えられないまま、例の妖しと対峙する日が来てしまう。
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